オリーブの若葉

2011年5月1日『こひつじ』誌165号掲載
三吉信彦牧師

創世記 8章10~11節

 更に七日待って、彼は再び鳩を箱舟から放した。鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。見よ、鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえていた。ノアは水が地上からひいたことを知った。

  • あの大洪水のあと、大地が再びいのちを生み出した証し、それがオリーブの若葉でありました。


     この年、巨大地震に伴う津波被害と原発事故によって、私たちは今、深い悲しみと憂慮に包まれています。その中で、被災地の山里に梅の花が蕾を開き、瓦礫と化した町並みの一画に桜の花が咲いた。被災した人たちの心に生きる喜びと希望を与えた、と報道され、私たちも慰めを得たことでした。大自然の猛威が人間の奢りを打ち砕く一方で、大地の息吹が打ちのめされた人々を慰めるのですね。

  • さて、鳩がオリーブの葉を加えている図案は、平和・シャロームのシンボルとされています。オリーブは、イスラエルに与えられた「七つの恵み」(大麦、小麦、ぶどう、いちじく、ナツメヤシ、ザクロ)の一つに数えられ、その実と絞り油は旧約の随所に出てきます。その油のしたたり、食卓はもちろん祭儀にも用いられ、神の恵みの豊かさの象徴です。


     また、その木は生長がゆっくりであって、長い年月を重ねた老木は堂々としており、「永遠のいのち」の象徴とも言われています。エルサレムの神殿域の東、キドロンの谷を隔てた小高い山は「オリブ山」と呼ばれています。おそらくオリーブの木を栽培した果樹園が多くあったことに由来するのでしょう。そのオリブ山には、終わりの日にメシアが立たれると、信じられています。

  • そのオリブ山の斜面、ふもとに「ゲッセマネ」の園があります。そこには今でもオリーブの老木が立っており、訪問者が主イエスの苦悩を思い起こすよすがとなっています。「ゲッセマネ」とはヘブライ語でガット(搾る)シェメン(野生オリブ)、つまり「油しぼり」を意味する言葉です。オリーブ園はぶどう園と同じくその近くに必ず実を搾る施設があったと思われます。実際は、オリブ山の南、ベタニヤへの街道沿いにある洞窟が主イエスの過ごされたゲッセマネであろうと言われています。主イエスはあの夜「汗が血の滴るように地面に落ちた」(ルカ22:44)ほどに苦しみもだえて祈られました。まさにゲッセマネ・油絞りのような祈りでした。

  • オリーブは不思議な木です。それは「永遠のいのち」の象徴であり、また冒頭の「平和と希望」の証しである一方で、オリーブはゲッセマネ・油絞りのもつ「苦悩」とも結びついています。しかり!主イエスのゲッセマネの苦悩を背後にもってこそ、やがて来る「復活」「再生」がまことの喜びとなるのではないでしょうか。オリーブはその苦悩と再生の両面性をもっている不思議な木です。


     実は我が家のベランダにもオリーブの木があります。何年か前の誕生日プレゼントに明先生から贈られたものです。ひょろんとして永遠の命とはほど遠い印象ですが、生長が遅いと言うことですから、ゆっくりその生長を見守りつつ、私も死と再生の時を迎えましょう。